著者:永塚慎一|フラワーアーティスト®・いけばな作家®
フラワーアレンジメントは花の配置だけで決まるものではない
フラワーアレンジメントを作るとき、花の配置や色の組み合わせ、全体のバランスなどを考えるのは当然のことです。
しかし、私はそれだけでは作品の完成度は決まらないと思っています。
同じ花材を使って、同じような場所に花を配置したとしても、出来上がった作品の印象がまったく違うことがあります。
なぜでしょうか。
それは、花が実際にどこにあるかということと、人間の目にどう見えているかということは、必ずしも同じではないからです。
私は長年、フラワーデザインの世界で作品を作り、競技会に出場し、多くの生徒さんたちに技術を教えてきました。
その経験の中で、花を美しく見せるためには、単純に花を配置する技術だけではなく、人間の視覚を理解した技術が必要だと考えるようになりました。
その考えから生まれた技術の一つが、私が考案した「アクセントライン」です。
アクセントラインとは何か?
アクセントラインとは、枝や葉、ある特定の花を使用して作品の中に視覚的な線を作り出し、見る人の視線や作品の見え方に変化を与えるフラワーデザイン技術です。
この技術の大きな特徴は、花そのものの位置を動かさなくても、見る人が感じる花の配置や作品全体の形を変えることができるという点です。
例えば、ある場所に花を配置したとします。
その花の位置は変えずに、周囲にアクセントラインを加える。
すると、花の見え方や、作品全体から受ける印象が変わることがあります。
実際の配置は同じなのに、見た目の印象が変わる。
これがアクセントラインの重要な考え方です。
ただ枝を長く伸ばしたり、葉を曲げたりすればよいというものではありません。
どの花材を使うのか。
どこに入れるのか。
どの方向に向けるのか。
その線が周囲の花にどのような視覚的効果を与えるのか。
そこまで考えて使う技術なのです。
なぜ最初は「錯覚線」と呼んでいたのか
実は、アクセントラインという名前は、私が最初に付けたものではありません。
この技術を考案した当初、私は「錯覚線」と呼んでいました。
なぜ錯覚線なのか。
それは、この技術が人間の視覚的な錯覚を利用するものだからです。
花の位置は変わっていない。
しかし、ある線を加えることで、花の位置関係や作品の形が違って見える。
その視覚的な変化を利用して、作品をより美しく見せるために考えた技術です。
その後、Nフラワーの会員が「アクセントライン」という名前を付けてくれました。
現在は、この名称で技術を伝えています。
名前は変わりましたが、基本となる考え方は変わっていません。
花を動かすだけがフラワーデザインではない。視覚的な効果を利用して、美しさを作り出すことも技術なのです。
アクセントラインに使用する花材
アクセントラインには、主に枝や葉、そして特定の花を使用します。
もちろん、どんな花材でも同じような効果が得られるわけではありません。
花材には、それぞれ異なる特徴があります。
直線的な枝。
曲線を描く枝。
細長く伸びる葉。
大きく曲げることができる葉。
線としての特徴を持つ花。
それぞれの性質を理解し、作品の中でどのように使うかを判断する必要があります。
ここで重要なのは、単に線ができればよいということではないという点です。
線を入れたことで作品が美しくならなければ、何の意味もありません。
私は、フラワーデザインの技術というものは、最終的に作品を美しくするために存在していると考えています。
技術を使うことが目的になってはいけないのです。
実際のフラワーアレンジメント作品から見るアクセントライン
ここからは、実際のフラワーアレンジメント作品を使いながら、線が作品に与える視覚的な効果について説明していきます。
葉の曲線が作品の印象を変える
この作品では、左側に大きく伸びる葉の曲線が特徴的です。
中央から左方向へ伸びる葉が、作品の中に大きな流れを作っています。
中心部分には赤いガーベラやカボチャなど、比較的強い存在感を持つ花材を配置しています。
そこに葉の曲線が加わることで、見る人の視線が中心部分だけにとどまらず、作品の外側へと動いていきます。
花材の持つ形や動きを利用することで、作品全体の印象を変えることができるのです。
枝の方向と花の見え方
この作品では、上方向に伸びる枝が特徴的です。
枝にはそれぞれ異なる方向性があり、その線によって作品の中に視覚的な流れが生まれています。
中心部分には存在感の強いプロテアを配置しています。
こうした大きな花を使う場合、花そのものの存在感だけで作品を構成しようとすると、どうしても視線が一か所に集中しやすくなります。
しかし、周囲の枝や葉の線を効果的に使うことで、作品全体の見え方に変化を与えることができます。
異なる方向に伸びる線の効果
この作品では、上方向に伸びる赤い実の枝と、下方向に流れる細長い葉が特徴的です。
それぞれの線が異なる方向に伸びています。
中心には大きなプロテアがありますが、周囲の線によって、見る人の視線は上下左右へと動きます。
ここで重要なのは、線を入れることで花の位置が変わるわけではないということです。
しかし、線の方向や配置によって、花の位置関係や作品全体の形に対する印象が変化します。
こうした視覚的な効果を考えて作品を構成することが、フラワーデザインの技術の一つなのです。
複数の枝が作り出す空間
この作品では、複数の枝がさまざまな方向へ伸びています。
左上に大きく伸びる枝。
右側に曲線を描く枝。
横方向へ広がる枝。
これらの線が組み合わさることで、作品の中に複雑な空間が生まれています。
フラワーアレンジメントは、花が入っている部分だけで完成するものではありません。
花と花の間にある空間。
枝が伸びた先にある空間。
そうした部分も含めて、一つの作品なのです。
私は、花材そのものだけではなく、空間をどのように見せるかということも非常に重要だと考えています。
アクセントラインは入れればよいというものではない
ここまで説明すると、枝や葉で線を作ればアクセントラインになると思う人がいるかもしれません。
しかし、それは違います。
アクセントラインは、単なる飾りではありません。
作品を美しく見せるための技術です。
そのためには、花材の特徴を理解し、作品全体の構成を把握し、視覚的な効果を考えながら使わなければなりません。
線を入れたことで作品のバランスが悪くなってしまったら、本末転倒です。
私は、技術というものは、知っているだけでは何の意味もないと思っています。
大切なのは、その技術をどれだけ正確に、そして効果的に使いこなせるかということです。
これはアクセントラインに限った話ではありません。
フラワーデザインのあらゆる技術に共通することです。
フラワーアーティストに必要なのは技術を生み出す力
私は35年以上、花の世界で仕事をしてきました。
競技会にも数多く出場し、さまざまな作品を作ってきました。
その中で常に考えてきたことがあります。
どうすれば、もっと美しい作品が作れるのか。
どうすれば、花の魅力をさらに引き出すことができるのか。
どうすれば、今までとは違う表現ができるのか。
私は、フラワーアーティストにとって、基本技術を身につけることは当然だと思っています。
しかし、本当に重要なのはその先です。
身につけた技術を使いこなし、自分自身の表現を作り出していくこと。
そして、必要であれば新しい技術そのものを生み出していくこと。
そこにフラワーアーティストとしての価値があると思っています。
アクセントラインは、私が作品制作の中で考案した技術の一つです。
^_^これからも私は、花の美しさを最大限に引き出すために、技術を追求していきたいと思っています。
Nフラワーデザインインターナショナルで伝えていること
私が代表理事を務めるNフラワーデザインインターナショナルでは、フラワーアレンジメントやいけばななど、さまざまな花の技術を指導しています。
私が指導するうえで大切にしているのは、単に作品を完成させることではありません。
なぜ、その場所に花を入れるのか。
なぜ、その角度にするのか。
なぜ、その花材を選ぶのか。
一つ一つの技術には理由があります。
そして、基本を身につけた先には、言葉だけでは伝えきれない高度な技術もあります。
だからこそ、私は実際に作品を作って見せることを大切にしています。
最高の技術を見せる。
それを見て、学び、実際に使えるようになる。
そうした積み重ねが、フラワーデザインの技術を高めていくのだと思っています。
花が上手くなりたいのであれば、技術を学ぶことから逃げてはいけません。
美しい作品を作るためには、必ず技術が必要なのです。
著者プロフィール
永塚慎一(ながつか しんいち)
フラワーアーティスト®/いけばな作家®
一般社団法人Nフラワーデザインインターナショナル代表理事。
花業界35年以上。
農林水産大臣賞2回、県知事賞20回以上、ジャパンカップ優勝、関東東海花の展覧会総合グランプリ、世界らん展インテリア部門優勝など、数々の受賞歴を持つ。
APECをはじめ、国内外の著名人に関わる式典やブランドイベントなどの装飾を手がける。
フラワーデザインに関する著書・監修書籍も多数あり、海外出版の実績を持つ。
現在は、作品制作やイベント装飾に加え、Nフラワーデザインインターナショナルで後進の育成にも力を注いでいる。
フラワーアレンジメント教室や専門的なフラワーデザイン技術については、Nフラワーデザインインターナショナル公式サイトからお問い合わせください。
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代表理事 永塚慎一(Shinichi Nagatsuka)




