監修・解説:フラワーアーティスト® 永塚慎一
同じ花材、同じ本数、同じ予算で花束を作っても、作る人によって完成した花束は大きく変わります。
一見すると、花束は花を束ねて形を整えるだけのように見えるかもしれません。
しかし実際には、花束を作る前の発想から、花の選び方、向き、高さ、茎の組み方、空間の取り方、葉や枝の使い方まで、数多くの判断があります。
私は35年以上花の仕事に携わり、多くの花束を制作してきましたが、プロとアマチュアの違いは、単に「きれいに束ねられるか」ではないと考えています。
大きな違いは、一つひとつの花材を見極め、完成した花束をイメージしながら、必要な技術を選択できるかどうかです。
プロは花束を作る前から考えている
プロの花束作りは、花を手に持ったところから始まるわけではありません。
まず考えるのは、「何のための花束なのか」です。
ギフトなのか、お祝いなのか、お供えなのか、自宅に飾るものなのか、商品として販売するものなのか。
さらに、誰が誰に贈るのか、どのような場面で渡すのか、どのくらいの期間楽しんでもらいたいのか、どのような環境に置かれるのか、そして予算はいくらなのか。
こうした条件によって、選ぶ花材も色も大きさもデザインも変わります。
私は花束を考えるとき、「用途」「贈る相手とシチュエーション」「飾る器」「飾る期間」「飾る環境条件」「コスト」という要素を考えます。
プロの花束は、作り始める前からすでにデザインが始まっているのです。
スパイラルができるだけではプロの花束にはならない
花束の基本技術の一つに「スパイラル」があります。
茎を一定方向に斜めに重ねながら組んでいく方法で、花束に広がりを持たせたり、花の位置を調整したりするための重要な技術です。
スパイラルを覚えると、ある程度きれいな花束を作れるようになります。
しかし、スパイラルで組めることと、完成度の高い花束を作れることは同じではありません。
基本的なスパイラルで広がりを作るところまでは、練習すればアマチュアでも比較的簡単にできるようになります。
難しいのは、その先です。
プロとアマチュアの差が出る「クッション」の技術
花束には、バンディングポイントと呼ばれる、茎を束ねる支点があります。
スパイラルで組んだ花束のバンディングポイントより下の部分を細く窄めていくと、構造上、バンディングポイントより上の花も内側へ寄りやすくなります。
つまり、足元をきれいに細くしようとすると、せっかく作った上部の広がりまで失われてしまうのです。
では、バンディングポイントより下は細く美しくまとめながら、上部の広がりはそのまま残すにはどうするのか。
そこで必要になるのが「クッション」です。
花と花の間に適切なクッションを作ることで、下部を窄めても上部の花が必要以上に内側へ寄らないようにします。
ただし、何をクッションとして使うかは決まっていません。
葉物を利用する場合もあれば、その花束に使っている特定の花をクッションとして利用する場合もあります。
重要なのは、「クッションを入れればいい」ということではありません。
花材の種類、茎の硬さ、花の大きさ、葉の付き方、花束全体の形、そしてどこにどれだけの広がりを残したいのか。
それらを見ながら、何をクッションとして使い、どこに配置するのかを判断します。
この見極めが難しいのです。
足元は細く締まっているのに、上部は窮屈にならず、一輪一輪の花がきれいに広がって見える。
こうした、一見しただけでは分かりにくい部分に、プロの技術の差が現れます。
花束には一つの正解の形があるわけではない
花束というと、丸い形を思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、花束にはさまざまな表現があります。
四方から見せるオールラウンド、正面を意識するワンサイド、茎を交差させず並行に扱うパラレル、花それぞれの個性や空間を生かすエアリー、流れを大きく見せるキャスケードなど、目的によって構成は変わります。
大切なのは、どの形が一番優れているかではありません。
用途や花材、贈る相手、表現したいイメージに対して、どの構成が最も適しているかを判断することです。
技術を知っているということは、決まった形しか作れないということではありません。
選択肢をたくさん持ち、その中から最適なものを選べるということです。
プロは花の「向き・高さ・空間」を見ている
花は工業製品ではありません。
同じ種類の花でも、一本一本違います。
まっすぐな花もあれば、曲がっている花もあります。花の顔が上を向いているものもあれば、横を向いているものもあります。
プロはそれを欠点としてすべて同じ形に直そうとするのではなく、その花の特徴として見ます。
この花はどの方向から見たときに一番美しいのか。
高く使うのか、低く使うのか。
前に出すのか、奥に入れるのか。
そして、花と花の間にどのくらいの空間を作るのか。
同じ10本の花を使っても、この判断によって花束の表情はまったく変わります。
花をたくさん詰め込むことが豪華さではありません。
一本一本の花が美しく見える場所を作ることが重要なのです。
葉物や枝物も花束を構成する重要な素材
花束では、どうしても花に目が行きがちですが、私は葉や枝も非常に重要だと考えています。
葉をどこまで残すのか。
どの葉を取るのか。
枝のラインをどの方向へ見せるのか。
グリーンを花と花の間にどう入れるのか。
先ほど説明したクッションも、葉物の性質を理解しているからこそ使える技術の一つです。
また、枝には花にはない線があります。
その線を生かすことで、花束に動きや方向性を与えることもできます。
花だけを見るのではなく、茎、葉、枝まで含めて一つの素材として見る。
それによって表現の幅は大きく広がります。
プロは贈る相手まで考えて花束を作る
技術的に美しい花束であっても、それだけで良い花束とは限りません。
花束の多くは、誰かから誰かへ気持ちを伝えるために贈られます。
例えば同じ「お祝い」でも、40代男性への昇進祝いと、小学生への発表会の花束では、当然デザインは変わります。
相手の年代、性別、好み、職業、渡す場所、持ち帰る方法などによっても考えるべきことは変わります。
商品として作るのであれば、購入する人と受け取る人の両方を考える必要があります。
作り手が作りたいものを作るだけではなく、依頼した人の気持ちを理解し、それを花という形に変える。
ここにもプロとしての重要な判断があります。
技術とは「知っていること」ではなく「選べること」
花束の技術というと、スパイラルなどの手順を覚えることだと思われがちです。
もちろん基本技術を身につけることは重要です。
しかし、本当の技術は「この場合には何を使うべきか」を判断できることだと私は考えています。
スパイラルにするのか、パラレルにするのか。
どの花を中心にするのか。
どの花をクッションとして利用するのか。
どの葉を残し、どの枝のラインを見せるのか。
どこを締め、どこを広げるのか。
こうした判断は、すべての花束で同じではありません。
花材も違えば、用途も違い、相手も違います。
だからこそ、基本を身につけた上で数多くの花を見て、作り、経験を重ねることが必要になります。
技術があるからこそ、自由な表現ができるのです。
まとめ|プロの花束は「判断」の積み重ね
プロとアマチュアの花束の違いは、単にスパイラルができるか、きれいな丸い花束を作れるかということではありません。
用途を考える。
贈る相手を考える。
花一本一本を見る。
向き、高さ、空間を考える。
葉や枝を生かす。
必要であればクッションを作り、足元を締めながら上部の広がりを保つ。
そして、その花束に最も適した技術を選択する。
こうした一つひとつの判断が積み重なって、花束の完成度が決まります。
花束は簡単そうに見えて、とても奥が深いものです。
ある程度作れるようになってから、その先にまだ多くの技術があることに気づく。
私は、そこからが花束作りの本当の面白さだと思っています。
フラワーアーティストという仕事について詳しく知りたい方は、フラワーアーティストとは?フラワーデザイナーとの違いもご覧ください。
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代表理事 永塚慎一(Shinichi Nagatsuka)
